雇入時の労働条件の明示義務
後日の労働トラブルとして多く上がるのが労働契約の内容です。
労働条件の明示義務は労働基準法第15条で定められています。
不要なトラブルを未然に防ぐためにも是非、この機会に整備していただきたいと思います。
事例:労働条件が入社前の説明と違う!
事例1:従事すべき業務について
住宅販売会社に中途入社した二十代会社員の話です。
「業務内容が当初想定しなかった建築作業の手配もあった。こんな条件なら入社しなかったのに…」
しかし、会社にはどの業務に就かせるかに関して一定の裁量権があります。事前に明示されていなかった業務で、かつそれが入社間もない時期であっても、配置転換と同様に許されます。
業務の内容が異なるくらいであれば、文句は言えないでしょう。
ただし、単なる説明不足ではなく、会社があえて詳しい業務内容を隠していた場合は裁量権が認められないことが多いです。
会社の裁量権により業務内容の変更は原則として可能です。
事例2:賃金の決定、計算について
「給与は新卒採用の同期と同じ扱い」と言われていた中途入社した二十代会社員の話です。
実際にはノルマ制度があるのに、労働契約には単に「年功序列型給与体系」などと示すことは許されません。ノルマ制度を設ける場合、労働条件として明示していなければ違法となります。
具体的に給与最低保障額の明示があれば労働者は少なくともその額をもらえる権利が発生します。その場合、ノルマ未達を理由に最低保障額より減額しても、減額分を請求されることがあります。
事前説明と異なり、基本給が新卒同期を下回った場合、中途採用社員が給与の差額分や慰謝料支払いを求めた裁判例が東京高裁2000年にあります。
そこでは「具体的な額は確定していなかった」などとして差額分の賠償は認めなかったものの、「平均的な給与待遇を受けると信じていたのに精神的な衝撃を受けた」として慰謝料は認めました(確定判決)。
書面で明示のない給与連動型ノルマ制度は違法です。
罰則
労働基準法に違反した場合、30万円以下の罰金に処せられることがあります。
労働条件の明示義務
規定内容
- 使用者は労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。
- 明示された労働条件が事実と相違する場合は、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
- 就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は必要な旅費を負担しなければならない。
絶対的明示事項
下記の労働条件については書面によって
明示することが義務付けられています。
- 労働契約の期間(期間を定めないときはその旨)
- 就業の場所、従事すべき業務
- 始業及び終業の時刻
- 所定労働時間を超える労働・休日労働の有無
- 休憩時間
- 休日、休暇
- 交替制の就業時転換に関する事項
- 賃金(退職手当、臨時の賃金、賞与等は除く)の決定
- 賃金の計算及び支払いの方法
- 賃金の締切り日及び支払いの時期
- 退職・解雇に関する事項 (解雇の事由を含む)
相対的明示事項
下記の労働条件については必ず明示が義務づけられているものではありませんが、明示してはじめて効力を生じるものですので、取り決めを行う際は明示しなければなりません。明示の方法は、書面でも口頭でもよいです。
また、就業規則に定めがあったり慣行として行われている場合は
明示する努力義務があります。この場合は、後々のことを考えて、書面で明示しておくべきです。
- 退職手当の定めが適用される労働者の範囲
- 退職手当の決定、計算・支払いの方法
- 退職手当の支払いの時期
- 臨時に支払われる賃金、賞与等
- 最低賃金に関する事項
- 労働者に負担させる食費・作業用品その他に関する事項
- 安全・衛生に関する事項
- 教育・研修等の訓練に関する事項
- 災害補償、業務外の傷病扶助に関する事項
- 表彰・制裁に関する事項
- 休職に関する事項
- 昇給に関する事項
- (有期雇用契約のとき)更新の有無、判断基準等
その他の注意事項
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以下の場合は労働条件を明示したことになります。
・その労働者に適用される部分を明らかにした就業規則の交付。
・労働契約の期間、就業の場所、従事すべき業務、残業の有無についての書面を交付。
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派遣労働者の場合
派遣労働者に対する労働条件の明示義務は、派遣元にあるとされています。
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パートタイマーの場合
パートタイマー(短時間労働者)も労働基準法でいう労働者であるため、書面による明示義務がある事項については、同じように書面で明示しなければならないとされています。
最終更新日:2009.04.14